最終更新日: 2023年4月5日
前回の「続、コロナと戦う、ブランド力」では、ウィズコロナ時代、アフターコロナ時代のブランディングについてお伝えしました。
そして、今回の特集では、「デザイン経営」について、このレポートにまとめています。
今までのやり方や視点にとらわれず、発想の起点を切り替えることで、新しい発見や新たな気づきが生まれるための環境づくりとして、
経営の本質的な部分を見つめる良いきっかけとして、皆様の今後のブランド活動にお役立てください。
“Ame to Tsuchi, Inc. Branding Report”
デザイン経営とは
「デザイン経営」は、2018年に経済産業省と特許庁が発表した報告書「デザイン経営宣言」によって知られるようになりました。
この「デザイン経営」という言葉は、2018年に経済産業省と特許庁が「デザイン経営宣言」という報告書を発表してから広く知られるようになりました。デザインの力を経営に生かすことで、ブランド力の向上、イノベーション(技術革新)力の向上を図り、それによって企業の競争力向上を図る経営手法を言います。
これは経営の上流にデザイン責任者を配し、デザインの力を有効な経営手段とするものです。
現在、大手企業での導入事例は増えつつありますが、従来の経営手法と異なる斬新な手法であるため、とりわけ、小規模企業の多い国内では、まだまだ十分な理解が行き届いているとは言えないのかも知れません。
また、「デザイン」という言葉は、一般的にモノを美しく見せる「意匠」という意味で使われることが多く、「経営」とどう結びつくのか疑問を持たれる方も多いかもしれません。
そこで、今回の特集では、この「デザイン経営」についてご説明いたします。
デザイン経営が誕生した背景
まず、報告書の冒頭では『日本は人口・労働力の減少局面を迎え、世界のメイン市場としての地位を失った。さらに、第四次産業革命により、あらゆる産業が新技術の荒波を受け、従来の常識や経験が通用しない大変革を迎えようとしている。そこで生き残るためには、顧客に真に必要とされる存在に生まれ変わらなければならない。そのような中、規模の大小を問わず、世界の有力企業が戦略の中心に据えているのがデザインである。』と記載があります。
さらに『一方、日本では経営者がデザインを有効な経営手段と認識しておらず、グローバル競争環境での弱みとなっている。』との記載もあることから、グローバル競争における弱点として、日本の経営者は「デザインを有効な経営手段と認識していない」ことが課題であり、改善のための取り組み方が詳しく書かれています。
このような課題を解決するための取り組み方、考え方として、経済産業省が推進しているのが、いわゆる「デザインシンキング」(デザイン思考)の活用です。
これは人間を中心に考えるデザイナーの思考をもって取り組むことが、事業規模に関わらず大切であり、「ブランドとイノベーションを通して、企業の産業競争力の向上に寄与する」との報告書がこの『デザイン経営』という言葉の誕生の背景となっています。
デザイン経営が重要な理由
報告書にあるデザイン経営の先行事例で紹介されている企業をいくつか見てみましょう。「デザイン経営」の重要性や具体的なイメージをつかむことができると思います。
「企業としてどのようなビジネスに取り組んでいくかという構想の段階からデザイナーが入る」。(日本電気/NEC)
「製品開発にデザイナーが企画段階から携わり、エンジニアと協働することで、エンドユーザーの視点を取り入れることに成功している」。(ソニー)
「従来の開発プロセスでは、家電としてもイノベーションが生まれてこない。開発のより源流でデザインも商品企画も一体となり進めるようになってきている」。(パナソニック)
このように「デザイン経営」とは、デザインの役割をプロダクトやグラフィックといった枠に収めず、企業経営に大きく関わる存在と捉え、経営の上流にデザイナーなどのデザイン責任者を配し、デザインの視点を有効な経営手段とする手法なのです。
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デザイン経営の定義や考え方
「デザイン経営」は「デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法です。その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことです」と定義されています。
ここで重要なことは「その本質は、人(ユーザー)を中心に考える」という点です。
1980年代、日本企業の製品はその技術的な高さで世界を席巻しました。しかし、現在、技術的な高さだけで優位性を確保することはできません。企業が提供する製品やサービスの価値は、ユーザーがどう思うか、ユーザーがどう体験するかにかかっているからです。そこで大切になるのがデザインの視点なのです。
Appleやダイソンの製品の優秀さは誰もが知っています。その背景には、製品の開発にあたって徹底してエンドユーザーの目線に立つという姿勢があります。一般に経営資源は「ヒト、モノ、カネ」と言われますが、デザインも重要な経営資源と捉えられているのです。
「デザイン経営宣言」においても、「革新的な技術を開発するだけでイノベーションが起きるのではなく、社会のニーズを利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けること、すなわちデザインが介在してはじめてイノベーションが実現する」としています。
「利用者視点で見極めること」、つまり「人(ユーザー)を中心に考えること」が強調され、そのためにデザインの力が必要になるのです。
デザイン経営のステップ
「デザイン経営宣言」では、デザイン経営と呼ぶための必要条件として、次の2点を挙げています。
(1)経営チームにデザイン責任者がいること
(2)事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
ここで言われているデザイン責任者とは「製品・サービス・事業が顧客起点で考えられているかどうか、またはブランド形成に資するものであるかどうかを判断し、必要な業務プロセスの変更を具体的に構想するスキルを持つ者」とされています。
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取り組み方とポイント
そして、具体的な取り組み方について、次の7項目を挙げています。
(1)デザイン責任者(CDO、CCO、CXOなど)の経営チームへの参画
(2)事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
(3)「デザイン経営」の推進組織の設置
(4)デザイン手法による顧客の潜在ニーズの発見
(5)アジャイル型開発プロセスの実施
(6)採用および人材の育成
(7)デザインの結果指標・プロセス指標の設計を工夫
なかでも「(1)デザイン責任者の経営チームへの参画」と
「(2)事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画」は、必須条件です。
「(5)アジャイル型開発プロセスの実施」のアジャイル(Agile)には、「素早い」「機敏な」という意味があり、システムやソフトウェアの開発手法です。
小単位で「実装→テスト」を繰り返していく手法で、「デザイン経営」の定義にある「柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すこと」を指しています。
いま企業は、人(ユーザー)が何を求め、あるいは何に困っているかなどを企業の目線ではなく、人(ユーザー)目線で考え、自社の製品やサービスを選択してもらわなければなりません。そのために必要になるのがデザインの力であり、デザインの力を経営に生かすことが「デザイン経営」なのです。
またデザイン経営という考え方は、企業としての受けるメリットだけに留まらず、顧客にもメリットが生まれます。そもそもデザイン経営では、ユーザー目線のニーズや使い方、体験といったものを重視します。そのため、デザイン経営を意識したプロセスを踏むことで、同じような商品であっても、より分かりやすく使いやすい商品になります。また、愛着を持って使ったり、使った時に感動したりできる商品が生み出されるようになります。そして、強いブランド力をもたらす取り組みでもありますので、ユーザーにとっては信頼できるブランドを見つけられるようになり、安心感を持てるというメリットが出てきます。
さらに、社員にとっても益となる考え方です。デザイン部門で働いてきた人材が経営に参画できることになり、活躍の場が広がります。また、商品開発やマーケティングなどの部署のスタッフが、新たにデザインについて学ぶ機会も与えられますので、さらなるスキル向上をしたり、広い視野を持ったりするためにも役立ちます。デザイナーもいわゆるデザイン制作会社だけでなく、中小企業を含む様々な業界の企業に採用される可能性が高まりますので、就職市場における活性化も見られます。
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デザインの投資効果
最後に「デザインを経営の中心に据える」。言葉では理解できたとしても、企業として経営をしていくうえでは、その結果が利益に結び付くのかどうかを計測することも忘れてはなりません。すでに世界の多くの企業ではデザイン経営が浸透しているとはいうものの、投資効果はどの程度のものなのか。それについてはいくつかのデータがあります。
たとえば、欧米では、デザインに積極的に投資を行う企業のパフォーマンスについて研究が進められています。ある調査機関の調査によると、デザインに投資することで、その4倍の利益が得られると発表。また、別の調査では、デザインを重視する企業株価が全体と比較して過去10年間で2.1倍成長しているという結果も出ています。
では、実際に自社でデザイン投資を実施する際、どのような指標で検証すべきなのか。それに関して、リベルタス・コンサルティングが2016年3月に発表した、意匠登録に積極的である企業に対するアンケート結果から見てみます。
費用対効果算定に取り組んでいる企業は全体の3分の1程度ですが、その評価指標は、顧客満足度・ブランド向上および売上への貢献度です。デザインの効果は金額には直結しないため、あくまでも顧客満足度やブランド向上を指標として見ることで、投資効果を計測しているようです。
このようにデザインを投資として考えることも事業存続にとって、優先順位の高い選択肢であり、グローバル社会においても、経営戦略の重要な位置付けとなります。デザイン戦略やデザイン思考、ブランディング戦略を取り入れたマーケティング活動やデザイン経営が、これからの経営者にとって、必要不可欠な条件となるのです。
「ブランドの再構築やブランドの再定義」など、リ・ブランディングをお考えの皆様。
そして、「業態シフトやブランドシフト」など、新ブランドをお考えの皆様。
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